あらすじ
大工のボブは、たのしく気ままなひとりぐらし。そうじはちょっと苦手ですが、自分の身のまわりのことはなんでもできます。土曜の夜は、友人たちと遅くまでトランプをして遊ぶのが毎週の楽しみです。
ところが、ある木曜の朝目覚めると、台所がピカピカで、テーブルの上にはかわいい妖精パン。そしてパンを少しかじってみると、冷蔵庫のうしろから3匹の小さな妖精が飛び出して来るではありませんか。
次の日の朝、目を覚ましてみると、髪の毛が妖精のような巻き毛に編み込まれています。おまけに、仕事用のながぐつやヘルメットがピカピカにみがきあげられ、ランニングも綺麗に洗濯してあります。仕事場に行くと、仲間たちは大笑い。
もしも土曜日、友人たちが部屋にいるときにエルフが出てきたら? 明日の夜、仲間たちが来るまでは、このエルフたちをなんとかしなければなりません。しかし、叫んでも、ものを投げても、エルフたちはいなくなりません。ボブは、エルフを追い出す方法を探しにいきます。
発売年:2007(日) 出版社:そうえん社
翻訳:深沢英介 絵:宮崎耕平
まぁ、エルフ!
ボブは、エルフをどうにかしようと、薬屋や害虫駆除店の店員たちに相談しに行きます。すると彼らは決まって「まぁ、エルフ!」と大げさに驚き、ボブの恥ずかしさはそのたびにつのります。どうもこの世界では、エルフなどのフェアリーの大量発生がたびたび起こり、対応策も用意されているものの、おおっぴらに被害を訴えるのははばかられるようです。
薬屋も害虫駆除店も、すぐにはエルフ駆除に対応できませんが、ボブの隣人でもある図書館員のリリー・スイートは、優しくあたたかい表情でボブの悩みを受け止め、妖精についての本を探してきてくれました。ボブは、その本を読み、エルフを追い払うための古いまじないを試すことにします。
児童書でありながら、この作品に子どもはひとりも登場しません。独り身のボブと、その隣人女性リリーの名が邦題にもなっているように、物語でふたりの男女が迎える結末はたやすく想像できます。ボブとリリーは、互いに全く違う相手に見えて、いくつかの共通点を持っていたのでした。ですが、ふたりの距離が近づく過程には、なんともシュールなユーモアがあふれています。読み終わってからしばらく思い出し笑いをしてしまう、どこかコミカルな物語です。
ピクシー・レプラコーン・地の精・小鬼・フェアリー・こびと、そしてエルフ
夜のうちにボブの身のまわりをピカピカにしてしまうエルフたちからは、子どものころに読んだグリム童話「こびとのくつや」が思い出されました。「こびとのくつや」に登場する妖精たちもエルフだそうですが、妖精にまつわる伝承やおとぎ話は、世界中に星の数ほどあります。しかも、ピクシー・レプラコーン・地の精・小鬼・フェアリー・こびとなど、世の中にはありとあらゆる妖精がいるのです。
エルフが何なのかは、いまいちピンときません。それはボブも同じで、どんなエルフなのか、ほんとうにエルフなのか、誰かに会うたびに問いかけられます。
エルフにまつわる伝承も、世界各地でさまざまあるようですが、特にアイスランドはエルフが身近な国で、国民の半数がエルフの存在を信じている……なんて言われており、エルフ伝承もふくむ古い言い伝えにまつわる遺跡が法律で保護されているそう。アイスランドでは、エルフは「Huldufólk:the Hidden people(隠れた人々)」と呼ばれ、
食べるたびに気持ちが落ち着き、良いアイデアの浮かぶ「妖精パン」や「妖精ケーキ」は、作者のまったくの創作というわけではありません。オーストラリアやニュージーランドでは、「フェアリーブレッド」「フェアリーケーキ」と呼ばれるお菓子が食べられています。
フェアリーブレッドは、100s and 1000s(ハンドレッズ&サウザンズ)というカラースプレッドを食パンにまぶしたお菓子で、誕生日や記念日に食べます。子どもたちには大人気だそうですが、これが大工さんの弁当箱に入っていたら、たしかに思わず笑ってしまうかもしれません。
「フェアリーケーキ」は主にイギリスで食べられるお菓子で、平らなカップケーキにカラフルなアイシングをのせたお菓子。フェアリーブレッド同様、とっても可愛らしいです。妖精の伝説は、現代でもそこここに息づいているんですね。
- フェアリーブレッドの作り方:Australian Fairy Bread Recipe
- フェアリーケーキの作り方
書誌情報
「Bob the Builder and the Elves」ABC Books,1994
英語版原書「Bob the Builder and the Elves」は、ロッダが専業作家に転身した1994年に発表されました。
日常にファンタジーが存在する物語(エブリデイ・マジック)としては、少女が見た夢と現実世界の出来事がリンクする「とくべつなお気に入り」と近いのですが、本作では日常生活のなかに多種多少なフェアリーがいます。現実世界にファンタジーが食いこんでいるような、不思議な世界が広がっています。
原書の表紙では、大柄でいかにもあらっぽそうなボブが小さなエルフを見つめていて、コミカルな雰囲気が伝わってきます。
「ボブとリリーといたずらエルフ」深沢英介訳、宮崎耕平絵、そうえん社、2007
日本語版の装丁は、英語版と比べると童話風になっていますが、中盤にあった見開きカラーのさし絵が印象的でした。ボブが歩いている通りをよく見てみると、オーストラリアの街並みに似ているようにも思えます。
日本語版の翻訳は、深沢英介氏。訳者あとがきによれば、ボブのモデルはロッダさんの夫なんだとか。つまりリリーは……。