4.デルトラ王国古代
戦いを終えたアディンは、七つの宝石が輝く『デルトラのベルト』を腰に巻き、デルの鍛冶屋に戻った。彼の仕事ははじまったばかり。
偉大なるアディン
忠誠の誓い
『デルトラのベルト』に守護石を託した七部族は、王となったアディンに忠誠を誓った。
なかでも、『竜の地』で最大の部族だったトーラ族は、忠誠をかたちに示すため、大理石でできた『誓いの大岩』を街の中心に建てた。
六部族が滅びる寸前になってから、ようやくアメジストを提供したトーラ族は、浅はかなふるまいを深く恥じ入った。そこで彼らは『誓いの大岩』に、アディンとアディンの子孫にまで忠誠を誓う魔法をかけて、いましめとした。もし自分たちトーラ族の子孫が王家への誓いを破ると、この魔法によって破滅する。これは、彼らの誇り高さゆえの行いでもあるが、アディンへの協力をこばんだせいで、新しい国で不利な立場に置かれることや、ことあるごとに王国への離反を疑われたりすることを恐れていたからでもあるのではないか。
しかしそれ以上に、アディンの人間性が、トーラ族の心を動かしたのだと思いたい。アディンは、トーラ族を信頼し、これからデルトラじゅうに建てる大事な施設に魔法をかけるよう頼んだ。国の重要な拠点を、トーラ族の魔法で、影の大王の攻撃から保護するためである。アディンの命でかけられたトーラの魔法は、それから数百年間みじんも揺るぐことなく、王国を守りつづけた。デルトラのベルトが破壊された、あの日までは……。
歴史年鑑
アディンは、国内での動きをつぶさに記録しはじめた。『デルトラ年鑑』には、日々の出来事が日誌のようにつづられ、中断をはさみながらも、建国から現在にいたるまで更新がつづけられている。各地の伝承や、生物の研究、漁民や農民から集められた報告、城での宴会までが記されている『年鑑』は、王国でもっとも古く、そして王国唯一の公式な歴史記録である。
アディンはその一冊目に、『竜の地』各地で語られてきた民話や歌、伝説をまとめさせた。アディンが子どものころに父から聞いた一族の物語や、 アディンとジャリス族を結びつけることになった民話『テナ・バードソングの話』も、そこにふくまれる。
国土の開発
国王の座についたアディンにとって、最も重要な仕事のひとつは、影の大王からの再侵略を防ぐことであった。
アディンは、ララド族の大工に依頼し、王国西部・アメジストの領土に張り出す骨岬に灯台を建てさせた。
三方を海に囲まれ、海上貿易を通じて発展してきたデルトラにとっては、よその島々から持ち込まれる品物や食料は、国民の生活に必要不可欠で、デルトラにとって海運は、他国とのつながりそのものといえる。
海の難所として知られる骨岬に灯台を作ることは、西の『銀の海』の島々からの交易路を安全に保つことが大きな目的だった。再侵略を狙う影の大王が、国外からデルトラへの補給路や、他国との関係を断つことは、なんとしても避けねばならなかった。
骨岬灯台が完成すると、万が一影の大王からの攻撃があっても耐えられるよう、アディンはトーラ族に頼んで灯台を保護する魔法をかけた。
鍛冶屋で暮らすアディンの身辺では、国王付きの衛兵隊が組織された。衛兵隊の起源はさだかでないが、衛兵隊が首都デルの警備をも担ってきたことをふまえると、デルの戦士たちや、デルトラの戦いの参加者がアディンに付きしたがい、やがて国王の衛兵とみなされるようになったと考えるのが自然だろう。
騎士道精神を重んじる国王の衛兵隊は、デルトラでもっとも勇敢かつ、屈強な戦士の集団と呼ばれた。衛兵隊は、国王の護衛とデルの警備を行うだけでなく、アディンの命を受けて王国の各地に出向き、国王が命じた事業をおこなった。そのひとつは、南部のダイアモンドの領土に原生する『ガブリ草』の駆除である。ダイアモンドの領土の農民は、ガブリ草の脅威に悩まされ、農耕や安全な暮らしをさまたげられていた。ガブリ草の駆除で、農地にできる安全な土地が増え、ダイアモンド領の農民の忠誠心はますます高まった。
デルとトーラ
ひかれあっていたアディンとツァーラが結婚すると、トーラの人びとは大いに喜び、デルとトーラという東西二大都市のきずなは深まった。トーラ近郊には、彼女の名を冠した『ツァーラの橋』が作られ、ふたりを慕うトーラの者たちは、つきしたがってデルに移り住んだ。
さらに、デルとトーラのあいだには、両都市をつなぐ『デルトラの道』が建設された。『デルトラの道』には、トーラ族の魔法がかけられており、通常よりも高速で移動することができる。デルの国王に助言や要望をするために、古代トーラ族はこの道を使ってあししげくデルに通った。
アディンと『デルトラのベルト』の継承
アディンとツァーラは、デルの鍛冶屋で仲むつまじく暮らし、2人の男子をふくむ5人の子をもうけた。
アディンは、愛するツァーラに支えられ、長く賢明にデルトラを治めたが、影の大王が虎視眈々と再起を図っているのをよく理解していた。一時的に追い払うことができたものの、敵は滅びたわけではない。また、夢見のオパールの不吉な予言も残っている。
アディンは、自分は人びとの味方であることを肝に銘じ、『デルトラのベルト』の魔力は、人びとの信頼を源に成り立っていることを子どもたちにも深く言い聞かせた。アディンは、自ら作り上げた『デルトラのベルト』を生涯身に着け、目の届かぬところに置くことはけしてなかった。
第2代国王の時代
アディン亡きあとは、その長男が跡を継いだ。アディンの長男は、両親にならってトーラ族の女性を妻に迎え、エルステッドとバラムの二人の男子を持った。
残りのアディン・ツァーラ夫妻の子どもたちも、両親を見習ってトーラ族の者と結婚し、それぞれ家庭を築いた。その後、アディンとツァーラの子孫たちは、王国中へと散らばっていった。
『デルトラのベルト』の継承
アディンが残した『デルトラのベルト』には、アディンの霊力が働いており、彼の子孫が身につけることで力を発揮する。また、アディンの血筋がこの世からとだえてしまうと、バラバラになってしまうと言われている。制作者であるアディンがこのように言い残したと考えられるが、実際にアディンの血筋がとだえたことはまだなく、理論上とだえる可能性も低いため、本当にバラバラになってしまうかどうかはわからない。しかし、アディンの長男は、父の言いつけにしたがって、『デルトラのベルト』を生涯身に着け、目の届かぬところに置くことはなかった。
エルステッド王の時代(3代)
アディンの長男をつぎ、その長男のエルステッドが、3代目の国王に即位した。アディンの孫にあたるエルステッド王は、気さくで優しく、人びとにしたわれていた。
エルステッドの代に、主席顧問官・アグラが側仕えとなり、王にあらゆる助言を行うようになった。アグラがいつ、どこから来たのかは、謎に包まれている。いつのまにか、国王一家に取り入り、やがて信頼を得た。
エルステッド王とバラム王子の確執
アディーナ女王の時代(4代)
エルステッドの長女アディーナは、デルトラで初めての女性の国王である。
彼女が君臨したころには、デルトラの大地はさらなる繁栄をきわめていた。国中の土地が肥えて緑が湧き、野にはけものがあふれ、海には魚たちが踊っていた。アディーナの治世ごろには、『デルトラ年鑑』にも、あまりの豊作や大漁ぶりに驚く、各地の漁民や農民からの報告が記されている。なんでも、巨大なメロンが収穫されたり、魚が採れすぎるあまり網が破けてしまったりと、今のデルトラでも考えられないほど豊かだったことが見てとれる。
七部族のあいだでも、領土をまたいだ移動や交流が当たり前のものとなり、かつての境界は薄れていった。もっとも小人族やララド族のように、ほかの部族と積極的に交わらない者もいた。また、メア族と平原族は、たがいを警戒したままだった。けれども、デルトラの繁栄ぶりは、海を越えて、各地の島々にも伝わった。
ドール族の渡来
アディーナ女王の時代には、東のドーン島から、フリートという街の住民たちがやってきた。黄金色の肌を持つフリートの民は、上質な馬の生産をなりわいとしており、ドーン島でも裕福な街だった。しかし、島でのある危機から逃れるため、自由に栄えているデルトラへと、馬とともに命がけで『ヘビの海』を渡ってきた。
デルトラの東海岸に上陸したフリートの人びとは、王国北東部・ルビーの領土、ララディン近郊に居をかまえた。彼らとララド族は交流を深め、ドール族がララド族の大工に依頼して新しい街を建てた。それが、箱庭のように美しい、黄金の街ドールである。
それからというもの、こんにちまでの400年間、彼らはデルトラの民として暮らし、ドール族と呼ばれるようになった。先祖の地にもどるつもりは一切なく、今ではここドールだけが彼らの故郷らしい。
時期ははっきりしていないが、カプラの跡地にはブルーム村が作られた。『ヘビの海』から流れ着いた海賊や、。
出典
- エミリー・ロッダ著、神戸万知訳、「デルトラの伝説」、岩崎書店、2006年
- エミリー・ロッダ著、上原梓訳、「デルトラ・クエストⅢ 1 竜の巣」、岩崎書店、2004年
- エミリー・ロッダ著、上原梓訳、「デルトラ・クエストⅢ 3 死の島」、岩崎書店、2005年
- エミリー・ロッダ著、神戸万知訳、「デルトラ王国探検記」、岩崎書店、2009年
- エミリー・ロッダ著、岡田好惠訳、「勇者ライと3つの扉① 金の扉」、KADOKAWA、2014年
- エミリー・ロッダ著、岡田好惠訳、「勇者ライと3つの扉③ 木の扉」、KADOKAWA、2015年